2014年12月17日水曜日

BMW i3「使い勝手の悪さが魅力かも」

  たくさんの自動車評論家がこのBMWが発売した新型EVを、一生懸命に擁護しておられるのを見ると、失礼ですがいつも苦笑してしまいます。セカンドカーなんてポジションは許さない万能な乗用車ばかりを手掛けるBMWが、「ザ・セカンドカー」を作ってきたわけですから、これには少々面食らってしまったのかもしれませんが・・・。かつてアストンマーティンにシグネットという400万円もする超コンパクトカーがありました。あくまでアストン・ユーザーにだけ購入が許される「オマケ」商品であり、トヨタのiQをOEMしたものだったということもあり、日本のカーメディアはとりあえずは完全無視を決め込んでいたようで、そこに言及する自動車評論家は皆無といっていいくらいでした。セレブのオシャレなセカンドカーといった立ち位置を考えれば、シグネットもBMWi3も同じ性質のクルマですね。

  知り合いのBMWファンのクルマ好きも、このクルマがなかなか放っておけないようで、「これは意外にも本格的な造りなんですよ!」と彼に会うたびに聞かされてる気がします。もちろん話を聞いて「なるほどね〜」と唸るポイントもいくつもあるのですが、滑稽なことに、そもそもこのクルマのコンセプト全体を一般的なBMW好きは一体どれだけ受け入れているのか?とも思ってしまうわけです。この手のクルマをこよなく愛してくれるのは、BMWファンなどではなく、「スバルR1」やちょっと古いですが「日産パオ」あたりを長く愛し続けてしまうタイプのちょっと変わり者が多いんじゃないのか?とふと思ってしまいます。

  さてそんなややこしい話は置いておいて、「満タン充電で最大航続距離が150km」という強烈すぎるキャラクターに、かなり前向きな感情が持てる人は、おそらく自動車雑誌を読んだり自動車関連のブログなどを見ている層には少ないと思います。だからといって購入者の大半はクルマにあまり興味がない人々だ!と言い切ってしまう勇気はないですけども、評論家が掲げるやたらと堅苦しい賛辞を見ていると、どれもこれも結局のところ内容が「軽い」です。大変失礼ですが、真剣にこのクルマの存在意義や開発者のヴィジョンに向き合おうとしていません。まるでエルメスやルイヴィトンが作るペット用ハーネスでも品評するかのような脱力感が漂っています。しかしそんなお気楽なレビューとは別にこのi3の存在感にただならぬものを感じたりするわけです。どうやらこのクルマを理解するにはもっともっと頭を柔らかくする必要があると思います。

  まず航続距離150kmですから、高速道路で都内から長野県あたりの景色がきれいなところへ出掛けるなんて、ほぼ物理的に不可能です。充電スポットを宛てにしても1回の急速充電完了まで30分待ちというだけでイライラしてしまいそうです。ただし1回500円で満タンになって100kmは軽く走るならば、プリウスが50Lで1000km走るのと比較してもかなり割安と言えます。遠くまでドライブするのには全く向いていませんが、例えば仕事から帰宅して片道30分(10km)程度の距離にある彼女の家にちょっと出向いたりするのに、週に3回通っても気にならないほどの良好な燃費に加えて、それなりにしっかりとしたオシャレさと高級感を持ち合わせているという意味ではかなり魅力的なクルマと言えます。

  さらに「長距離ドライブはかなり退屈」というクルマ好きがなかなか直視しようとしない現実に勇気を持って向き合うことで、このクルマの価値はグンと高く感じられると思います。「思う存分に走るぞ!」という不毛な幻想にいつまでも浸っていてはダメだと、薄々は気がつき始めている人にとっては、「禁煙パイポ」的な意味でこのクルマに乗り換えることで新しい生活が運ばれてくるかもしれません。自分と彼女の休日を目一杯使ってドライブ・・・しかし実際は高速道路を500kmも走ればガソリン代と高速代で15,000円あまりかかります。冷静に考えれば、東京ディズニーランドでフリーパスで楽しめるくらいの金額を消費しているわけです。クルマもドライブも好きだけど、時間とお金の無駄遣いになりかねない休日の日中のビジーな道路事情に嫌気がさしている人にとって、このBMWi3は魅力的な代替案を突きつけてくれます。ドライブを楽しむならば深夜に短時間で快適なクルーズを!というのはなかなか清々しい結論ではないですか?

  「遠くには行けない」という限定された性能のクルマというのは、ユーザー側がその分使い方をあれこれと工夫をしたくなります。だからといってどうなるものでもないですけども、考える過程にいろいろと楽しみがあったりするはずです。150kmしか走れないですから、自宅から30km圏内で最も楽しいドライブが出来るスポットはどこか?と血眼になって探しまわる必要があり、その結果わざわざ箱根や群馬県の有名な峠ルートまで出向かなくても、多摩丘陵の付近にとても良いワインディングコースが見つかったりします。BMWi3ならばそこで楽しむより他にないわけですから、感情に任せて深夜に景色の全く見えない山岳路を登るなんてややマヌケな行動はしなくなります。これがプリウスに匹敵する燃費性能を備えたレクサスCT200hだったら・・・。内装の豪華さに関しては深夜に彼女とデートドライブするのに良いですが、大して面白くもないドライブフィールに包まれながら、深夜に箱根行脚をするといった愚かな考えが頭を過ることがあるかもしれません。

  「150kmしか走れないからこのクルマがいいんだ!」という新しいメンタリティこそが、BMWの新しいコンセプトを理解する上でとても重要なことだと思います。航続距離が500kmまで伸びるテスラ・モデルSならば、特に説明するまでもなくクルマの価値が伝わるでしょうが、このBMWi3の価値を必死で伝えようとしている自動車評論家はどうも空回っている気がします。特にライターとしての生き残りに必死な様子の還暦のライター(国沢光宏、熊倉重春など)が「EVならまかせろ!」的なスタンスを取っていらっしゃいますが、どうも軽自動車かなんかの代わりくらいにしか考えていない感じがプンプンします。もっと若くて柔軟な考えを持った自動車評論家が、これまで考えてもみなかったEVの可能性についてしっかり語っていくことがプレミアムEVの普及と低価格化をもたらすと思うのですが・・・。


リンク
最新投稿まとめブログ

  

0 件のコメント:

コメントを投稿