あえて乱暴なことを言ってみますが、「最近の欧州車にはどうも明確な存在意義が見当たらない!」です。自動車雑誌を見ると相変わらず美麗秀句でベタ褒めされていますが、やたらと多くのモデルを断続的に発表しているメルセデスやBMWを見てると、価格的にはかなりリアリティがあって喜ばしくても、肝心のクルマが「???」で全くと言っていいほど美点が見えてこないです。とりあえず「良し悪し」は多分に個人の感覚的なものだったりしますが、好き嫌いを超えてそのクルマが「力作」かどうかという価値判断においては、どうも水準が低くなっているように思えるのです。ドイツ人は一体いつからクルマに情熱を無くしてしまったのか?
あくまで私の推測に過ぎないですが、この10年で新車販売が半減してしまったドイツを始めとした欧州で働く自動車産業の人々の気持ちを推し量ってみると、クルマがいまいちなのもなんとなく合点がいきます。「外貨獲得の手段」としての工業製品なんてものはそんなものかもしれません。アメリカではもう10年以上も欧州車は売れていないし、アジア人が使うだけのクルマをマジメに作ってられるか!なんて白人優越主義な感情すらも多分にあるでしょう。とにかく今や欧州メーカーが最も熱視線を送る市場は中国です。もし中国が欧州車を買わなくなればフランス・イタリア・ドイツでなんとか生き残っている伝統のメーカーは全て滅び去るでしょう。よって欧州メーカーが次々と出す多彩なラインナップが想定している市場はほぼその全てが中国です。日本で売られている輸入車で中国では手に入らないものはBMWアルピナD5くらいなものです(並行輸入すればOKですが)。
メルセデスA、CLA、GLAの各モデルを見て、まともな経済感覚を持っている人ならば、これらが中国でのメルセデスによるVW追従作戦の本格的なラウンチを目指す基幹モデルであることがわかるはずです。もはや中国に完全に軸足を移しているアウディやBMWの全ラインナップを見渡しても、個人的には欲しいクルマなんてまず見当たらないですし、これらのブランドはもはや日本での使用をほとんど考慮していないと言っていいかもしれません。また一部の国産車についても同じことがいえます。スカイラインにターボが付いたのも中国を目指してのことですし、レクサスNXも最初からターボありきで登場したのも、このクルマが最初から中国市場を主体とした企画だからです。しかし自動車雑誌を読んでいるとそんなことを匂わせる文言はまったくと言っていいほど見当たりません。当たり前ですが・・・。
欧州メーカーの現在のほとんどの仕事は、中国向けに設計されたクルマをグローバルにも大量投入することです。そのおかげで日本でも比較的廉価な新型車の発売ラッシュになっているメルセデスとBMWですが、雑誌の評価はともかくディーラーに行ってみるとどうも盛り上がりに欠けている様子が伝わってきます。確かにメルセデスは日本で数字を出してはいますが、なんだかんだ言っても欲しいクルマはAMGだけですし・・・新しいメルセデスを一体どんな人が買っているのやら。骨のある評論家はA・CLA・GLAはメルセデスとしての品位に欠ける!なんて偉そうな意見を言ってますが、そんな枝葉末節なことよりも深刻なのは、欧州メーカー全体に良質なクルマを作ろう!という意欲が決定的に欠如していることだと思うのですが・・・。
冒頭にも触れましたが、自国の新車販売が10年間で半減というのはかなり危機的な数字です。つまりメルセデス・BMW・アウディが揃って一般のドイツ人から無視され出しているということです。「ダセ〜んだよ!」と日本人が日本車を叩くよりも何十倍も苛烈にドイツ人はドイツ車を蔑んでいます。おそらく「中国向けのクソ車なんて死んでも買わない!」とか言われているはずです。日本人が三菱ミラージュや日産マーチ(現行)に浴びせた冷たい対応と同じようなものが、ドイツでも起こっていて結果的に日本とは異次元に進行が速い「クルマ離れ」が到来しているのだと思います。
その点で日本メーカーははるかに上手くやっています。顧客のニーズに合わせて器用にクルマを作り分けて、その中でも情熱のこもったクルマ作りがあれこれと垣間みられます。そんなのはオマエの見方次第だろ!って言われてしまうかもしれないですが、新しくなったVWポロとマツダデミオのどちらに開発者の注いだ情熱を感じますか? 新型Cクラスが果たしてISやスカイラインよりも「やり切っている!」と言いきれますか? 少々飛躍があるかもしれないですが、ドイツ人が東アジア向けに作ったラインナップの相似形が、トヨタがブラジルで販売する約300万円のカローラです。ノックダウン生産の日本で絶版となったカローラです。なぜ300万円かって?日本車のブランド力が非常に高くてこの価格でも十分に売れるからだと思います。
欧州メーカーだけじゃなく、日本メーカーも中国向けにミニバンやSUVを画一的に大量販売したいという根元的な野心を隠し持っています。クルマに関して奥手な層を量販モデルへと追い立てて囲い込む戦略の中には、欧州メーカーとよく似た「確信犯的なクルマ作り」を感じます。先ほどもちょろっと紹介しましたが、トヨタは伝統のクラウンにターボモデルを投入するらしいと専らの噂です。そして評論家の誰一人として、トヨタの狙いが中国販売のテコ入れなのだというバレバレの事実を報じようとはしません。中国人が妄信的に喜ぶターボエンジンは巨大メーカーにとって避けては通れないファクターです。ホンダもスズキもDCTを装備し始めましたが、ターボエンジンと相性が良いとされるミッションをこれらのメーカーが使い出した狙いの先にはやはり中国があります。
中国やインドは欧州メーカーの進出が目覚ましく、残念ながら日本のCVTがシェアを伸ばすことはできませんでした。日本の道路環境で威力を発揮するCVTですが、最大のネックは中国やインドではこの複雑な機構をメンテナンスできるインフラが整っていないことです。東南アジアは日系メーカーが制圧しつつありますが、中国やインドで闘うためにはCVTではなくDCTが必要なのだとホンダとスズキは判断したようです。
欧州車もトヨタ(レクサス)や日産の高級車もホンダやスズキの廉価車も、大雑把に言ってしまうと大前提としているのは中国市場です。そういうクルマでいい!という人にとっては何の問題もないですが、日本に住んでいるのだから日本に合った設計をしていてほしい!と願う人々にとって最後の砦となるのは、やはりスバルとマツダです。いくら批判に取り巻かれてもCVTに拘って熟成&高性能化に邁進するスバルと、ロックアップ式トルコンATの開発により乗り心地を犠牲にしない道を見事に切り開いたマツダ。日本で最高のクルマを目指して進化を続ける両ブランドの姿勢は実に清々しい限りです。自社製造ミッションを根幹にクルマを開発しているこの両ブランドは、間違いなく地に足がついた進歩を遂げています。
ZFとアイシンAWのやや不毛な多段化競争の実験台に成り果てた「プレミアムブランド(笑)」を愛車にするくらいならクルマなんていらん!くらいの頑固な人の懐にそっと入っていけるクルマがスバルのレヴォーグでしょうか。今どき珍しい普通車の「国内専用車」という素晴らしい「時代錯誤」感を盛り込んだ演出の全部がスバルの計算だとしても、なんだか許せてしまいます。スバルが日本人のことだけを考えて作ったクルマ・・・そこにはスバルからの強烈なメッセージがあると思います。
「欧州メーカーのようなクルマ作りをスバルがもししていたら、中島飛行機から続く伝統に泥を塗ってしまいます!」
「もしそんなクルマ作りをスバルがしていると感じたら、大いに批判してください!スバルは絶対にそんなクルマ作りはやりません!」
もちろんスバルからそんなプレスリリースはありません。レヴォーグが他の全てのクルマを上回っているという意味ではなくて、スバルの情熱がこのクルマにはほとばしっていて、それを感じてくれた所有者に確かな喜びを与えてくれるという意味で他のクルマよりも別格に素晴らしいと思います。
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